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2009-12-21

1962年のパリだより【798】意見の対立は社会発展のエネルギーだろうか
1962年2月25日(日)
ところが食事を進めながらの対話は、饒舌なマダムAの独壇場だった。
そして驚くことに、これでもか、これでもかと、日本の悪口なのだ。
「日本の道路には穴があって、水がたまっている」
そう言われれば、パリの道路に水たまりを見つけることは、なかなか難しい。
街で長靴を履いている人も、あまり見かけない。
「日本は埃が多く、マスクをかけている人が多い」
たしかにフランスのチョッとした街は、毎朝清掃用の水を歩道に流し、人夫がゴシゴシ舗道を磨いている。
その清らかに磨かれた舗装を、人間は遠慮なくゴミを捨てて汚し、夕方にはすっかり人間臭くなっている。
犬でさえ、排泄物を遠慮なく道端に残しているのだ。
それでも翌朝にはピカピカに磨かれるので、街が生き返っている。
日本に対する悪口は続く。
「結核が多い」
「給料が安い」
「靴が悪い」
だいたい話というものは、褒めるよりけなす方が、面白いものらしい。
私も日本に帰ってからフランスを褒めると、嫌がられるのかもしれない。
あるいは、フランス文化は、もともと意見の対立をエネルギーとして生まれたもののようだ。
だから対立は社会の発展のために大切なことで、皆が好んでさえいるように見える。
しかし日本の「対立」と違うのは、その背景に敵対的な感情がないことだろう。
日本は外交が下手と言われるが、この辺りの事情が響いている可能性がある。
写真は「ソフィーさんのマイページ」(写真6,100枚)、
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2009-12-20
1962年のパリだより【797】パリ人の日本礼賛論

1962年2月25日(日)
フランス人Cさんの家庭に、昼食を招かれる。
この方は、妹さんが日本人と結婚し、日本に暮らしておられる。
妹さんのご主人は私の友人であり、今回パリに出発するに当たっては、たくさんの助言をいただいた。
その妹さんから「一度片瀬さんを招いて、フランスの家庭を見せてやってほしい」との連絡が、パリに住む姉さんに来ているという。
Cさんの親しい友人マダムAも、私と一緒によばれていた。
マダムAは昨年夏から今年の1月まで、留学生として日本に滞在されたので、話題がよく合うとの配慮らしい。
食事は13時に始まり、対話を楽しみながら17時まで続いた。
こんな時の話題は、日本を褒め合う中味が多いと、私は思っていた。
フランスには根強く日本礼賛の気風があって、「ジャポニスム」は名高い。
単なる異国趣味を越えて、哲学的な背景とともに、彼らの文明に大きな足跡を残している。
しかし安っぽさを感じさせる日本趣味も育っていて、日本礼賛論には歯の浮く思いをすることも少なくない。
さて今日は、どんな日本論が出て来るのだろうか。
私は期待感と好奇心を交錯させながら、Cさん宅のドアをたたいた。
Cさんの住み家は、パリの北部、有名な蚤の市のあるポルト・ド・クリニャンクール近くに建つ、低所得者対象の公営マンションである。
シテ・ユニヴェルシテール駅からソー線に乗り、次の駅ダンフェール・ロッシュローで4号線に乗り換えれば、終点がポルト・ド・クリニャンクールと便利だ。
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2009-12-17
1962年のパリだより【796】ヨーロッパ社会を説明するときに不足する日本語

1962年2月24日(土)
昨日から、日本向けのレポートを書き始めた。
まだフランス滞在期間は残っているが、到着以来7カ月間に得たもの、考えたことをとりあえずまとめたい。
しかし書きたいことが多過ぎるためか、なかなか文章が出てこずに、しきりに悩む。
日本語の語彙を、すっかり忘れている。
日本語をフランス語から、仏日辞典で探す有様だから、これではなかなか捗らない。
いわんや、日本語の技術用語の忘れ方が激しい。
しかしより本質の問題は、これまでわれわれが造って来た「言葉」を使う限り、今までになかった新しい事柄を表現するには、不足があることだ。
世の中には、言葉が出来ていないから説明できないことが、間々ある。
レポートは、公の場に出されることを前提に、正確を期さなければならない。
先ず考えをまとめながら、適当な表現を模索し、カタツムリの歩むごとくゆっくりである。
一日机に向かって、ようやく1000字。
しかし根気強く続ければ、そのうち調子は出てくるだろう。
なんとか4月半ばまでには、納得できるものに仕上げたい。
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2009-12-16
ラインを上る【80】ドイツの夢を育むかニーデルヴァルト記念碑

2008年4月15日(火)
春風をほほに感じ、二ーダーヴァルト・ザイルバーンに揺られながら目をつぶると、昔のドイツ人ライン河渡河の歓呼が聞こえてくる。
夢うつつで空想に酔っていると、ゴンドラは疎林に入り、やがてザイルバーンの丘上ターミナルに着いた。
丘の上には、ザイルバーンの少ない客からすれば、思いがけなく多くの人たちがいた。
皆さん、トレッキング姿である。
この丘は軽いハイキングコースとなっていて、地域の人たちの憩いの場でもあるようだ。
立派なハイキング道を少し登れば間もなく展望が開け、ニーダーヴァルト記念碑のある広場に出る。
記念碑は高さ38メートルもあり、ドイツらしい堂々たる、あるいは仰々しいものだった。
中央に聳える銅像は、ドイツの象徴ゲルマニアの女神像である。
女神像はドイツ皇帝の冠を右手に、剣を左手に持っている。
像の足下には等身大のレリーフが埋め込まれて、中央に乗馬姿のヴィルムヘルム1世を中央に、その右に鉄血宰相ビスマルクを始めとして、総勢200人もの人物が居並ぶ。
レリーフの左右に立つ大きな銅像は高さ2.8メートルと言い、戦争と平和の天使らしい。
展望台から眺めると、ライン河の手前すなわち右岸のリューデスハイム側にはブドウ畑が、対岸にはビンゲンの町が、ドイツの風景を代表するように記念碑を囲んでいる。
ラインの流れはここから右に折れて川幅が狭くなり、険しい断崖の多い流域が始まる。
ライン下りの出発点である。
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2009-12-14
ラインを上る【79】ニーダーヴァルトの丘に感じるドイツ人の高揚感

2008年4月15日(火)
ザイルバーンの二人乗りゴンドラは、青空のもと心地よい春風に吹かれながら、丘のブドウ畑をかすめるように低く進む。
ブドウ畑は芽吹いたばかりのみずみずしいグリーンに彩られ、まるで天国の絨毯のようにふかふかして見える。
やがて進行右側に、ライン河の水面が見えてくる。
河の手前はリューデスハイムで、対岸のやや大きい集落はビンゲンだ。
そして南西に広がる、豊かな緑地。
その昔中欧からやって来た人たちは、その先に太陽の溢れる沃野を夢見て、新天地に心をときめかせたに違いない。
対岸で懸命に渡河を防ごうとするライン右岸の人たち、それをものともせずに渡河を強行しようとする左岸の人たち。
勇壮な戦いの場が、目に見えるようだ。
まさにこの景観の中で、ヨーロッパ支配のサイコロは投ぜられたのだった。
両軍の胸の高まり、荒々しい息遣い、数百年前の戦いの光景が、まざまざと眼前に展開される。
このザイルバーンの終点にある見晴らしの良いニーダーヴァルトの丘に、ドイツ独立記念碑が建てられている。
1871年普仏戦争に勝ったプロシアは、永年の夢ドイツ独立の機運を掴んだ。
その記念すべき独立のけじめをここに留めるべく、1877年から1883年にかけてドイツ皇帝ヴィルヘルム一世が記念碑を建てた。
(一説によれば、ヴィルヘルム一世がここに最初の石を置いたのは、ドイツ独立の年1871年ともいう。)
いにしえのライン河渡河、そしてフランスを撃破してのドイツ帝国統一と、ドイツの人たちの高揚感を表現する記念碑として、この場所はふさわしい。
ただ、第二次世界大戦でドイツが破れた後にもこのような記念碑が残っているのは、不思議な感じもする。
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